大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

熊本地方裁判所 昭和37年(ワ)475号 判決 1967年7月27日

原告 合資会社徳永工業所

被告 国

訴訟代理人 山口常義 外三名

主文

原告の請求はいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

一、原告が採石および栗石、土木建築用石材等の生産ならびに販売事業を営む会社であつて、昭和三三年八月一日訴外九州砂利工業株式会社との間に、同会社所有の本件採石場を経営するについての契約を締結し(その具体的契約内容については争いがある)、その契約に基づいて本件採石場を経営していたことについては当事者間に争いがない。

二、そして原告会社は右採石場を経営するにあたり右採石場の東側に接して通じている湯浦町の町道を横切つて国鉄湯浦駅まで軌道を設置して採石した鉄道用砂利をトロツコで運搬していたこと、被告国が昭和三四年四月頃から建設省が事業主体となつて熊本、鹿児島間の一級国道三号線の改修工事を施行することとなり、その国道が本件採石場付近では右町道と重複して建設されることとなつたことについても当事者間に争いがない。

三、本位的請求について。原告は、原告会社と被告国との間に前記軌道と新しい国道とを立体交差させるための跨道橋と本件採石場の発破作業のための国道の交通上の危険を防止する施設を被告が設置する旨の契約が成立したと主張し、被告はその話はいまだ交渉の段階であつてその結論には達せず、契約が成立するまでには至つていなかつたと主張して争うので判断するに、<証拠省略>によれば一応、九州地方建設局の三太郎国道工事事務所の工務課長である訴外富田川正安との間に右跨道橋および発破防護施設を被告の方で作る旨の合意が成立したとの供述があるが、該供述部分は後記証拠に照らしたやすく措信できず、また<証拠省略>によつても右の合意が確定的になされたことを認めるに足りず、他に右契約の成立を認めるに足る証拠はない。かえつて、<証拠省略>によれば右のような施設をするについては、たんに当事者間に交渉が進められていたにすぎず、最終的に右施設を設置する旨の合意の成立までにいたらなかつたことが認められる。したがつて、右契約を前提とし、その債務不履行を理由とする原告の本位的請求はその余の点を判断するまでもなく理由がない。なお、右本位的請求には原告の道路占用権の侵害による損害賠償も含めて請求しているようであるが、次項において判示するとおり道路占用権じたいが認められないので、その損害の点を判断するまでもなく理由がない。

四、予備的請求について。まず、原告は自己の有する道路占用権が被告の国道工事によつて侵害されたと主張するので判断するに、<証拠省略>を総合すれば、訴外湯浦町が前記軌道について明確に道路占用権を設定したことを認めることまではできないが、右軌道を国鉄が使用していた頃から事実上右町道を占用しており、これを順次引き継いで原告も右軌道を使用して砂利を運搬していたこと、その間右湯浦町から右占用につきまつたく異議を申し立てたこともなく、むしろ同町は右占用の代償の意味で本件採石場から道路に敷く砂利を無料でもらつていたことなどが認められるところから、右町道について従前から道路占用権が存し、これを順次譲り受けて原告が取得するにいたつたものと推認され、右認定に反する証拠はない。しかし、右道路占用権の内容、期限等については明確ではなく、本件国道工事が施行される際もなお存在していたかどうかについては疑問があり、<証拠省略>によれば、右町道のうち国道敷となる部分については右工事当時すでに廃止されており、同町においても原告からの右道路占用権の継続願が出された際に右国道部分は許可していないことが認められ(右認定を動かすに足る証拠はない)、また国道が設置されるためには路線の指定(道路法第五条第一項)、道路区域の決定(同法第一八条第一項)がなされ、これに従つて工事がなされることとなるが、右工事の前提としてその道路区域内の土地その他の物件について国が所有権その他の権限を取得する必要があり、その点からみれば、本件の町道も特段の事情のないかぎり右工事着手前に廃止されたうえその所有権その他の権限を国に譲渡されているものと推認される。ところで、道路占用権は道路管理者に対する公法上の債権たる性質を有すると解せられ、公法上の制約を受け、道路占用権者は右占用権を理由に道路の廃止を拒否できず、また道路の廃止があればその道路の存在を前提とする占用権も当然消滅し、占用権者は自己の占用権をもつて右道路敷の第三取得者に対抗することはできないものと解せられる。したがつて、本件道路占用権(かりに当時まで存続していたとしても)も右町道の廃止とともに当然消滅したものと解せられ、右町道の道路敷の第三取得者たる被告国に対してこれを主張することはできず、右道路占用権の侵害を理由とする損害賠償の請求は理由がない。

さらに、原告は前記国道が本件採石場のすぐ近くを通過するようになつたため右工事用自動車および一般車両の通行がひんぱんとなり、その交通上の危険等から右採石場の発破作業が制約を受け、その結果減産および事業閉止による損失が生じたとしてその補償を請求しているが、これは道路法第七〇条による損失補償を求めるものと解せられるところ(前認定の事実関係からすると、本件道路工事そのものは適法なものと認められるので、道路工事が違法であるとして被告国に対しその損害の賠償を求めることは許されない。)、同条による損失補償については、まず道路管理者と損失を受けた者とが協議をし(同条第三項)、右協議が成立しない場合は収用委員会に土地収用法第九四条による裁決の申請をなし(同条第四項)、その裁決をまつて、これに対し不服がある場合はじめて出訴できるものと解するのが相当である。ところで本件においては、右損失補償について原告と道路管理者との間に原告が本訴で請求するような内容の協議が成立したことも、また右損失補償について収用委員会の裁決を経たことも認めるに足る証拠はない。したがつて、原告の右請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないといわねばならない。

五、以上、原告の本訴請求は本位的請求、予備的請求ともに理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 後藤寛治 高橋金次郎 綱脇和久)

別紙図面<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例